りゅう.Kです。某電気メーカー勤務を経て、公認会計士の資格を取得した後、大手監査法人(BIG4)勤務、パートナーとして上場企業や金融機関,非営利組織など多様な業種・分野で監査・コンサルティングを担当。個人での税理士業務経験あり(現在は税理士登録はしておりません)。

 

~prologue~

大学では経済学を学んだ(経済史専攻)。そのころは会計学に興味も素養もなく、簿記のボの字も知らないありさま。

メーカーでの仕事を通じておぼろげな知識を得てから、公認会計士の受験勉強中に会計学や複式簿記の詳細を知ったわけ。これが経済学の勉強に生かせていたらとおおいに悔やまれたのを覚えている。会計学の立場からは、ビジネスの大きな流れを理解する上で経済学の知識は大変役立った。僕が受験した当時、公認会計士の国家試験では経済学が必須科目だったのだけれど、いつの間にか選択科目になってしまい、残念な気が。。

実を言うと経済学と会計学が互いに深く関連し、各々の理解に際しては補完しあい、有用なシナジーが生まれることは広く言われていた。学生時代の僕自身がサボっていただけの話で、経済学専攻学生の基本書中の基本(少なくとも昔はそうだった)、ポール・サミュエルソン「経済学」ではしっかり章を設けて、複式簿記に基づく会計学の一通りの考え方を説明しているのだ(1981年版にはありました)!。とはいえ、実際の経済界では、専門家と呼ばれる人々でさえ両者を十分に活用できていないのが実情だとも思う。

 

~複式簿記と経営~

さて、複式簿記(double-entry book-keeping)とは、その名のとおり、「一つの経済事象(取引)を二つの面から記録し、もって経営の損益・財政両面の状態を算定する帳簿記入の方法」で、わが国では明治期以降に欧州と英米の両方から伝わって瞬く間にポピュラーになった。人によっては人類史上最もインパクトのあった発明の一つに数えるし、よく話題にのぼる「役に立つ資格」でも「簿記検定」は最強という人も多い。僕もその通りだと思っている。複式でいうところの二つの面は、それぞれ借方,貸方と呼ぶカラムに同じ金額を記録するのだけれど、この「物事を二つの面」から「同じ金額」で記録されるというところが、「経済活動を異なる二つの側面から記述する」ことにつながってくるわけ。例えば現金の支出を単純に記載した現金出納記録などに比べると情報の質が格段に上がる。複式簿記のこれら二つの性質を「取引の二面性」、「貸借一致の原則」と呼ぶこともある。

簿記の技術的な情報は巷間あふれていると思うので、少しだけ実例を。

 

①金融機関から借入を行って入金(現金としましょう)される。

②商品を売り上げて入金があった。

①のケースの複式簿記の記録

      借方)現金 〇〇円  /  貸方)借入金 〇〇円

②のケース

      借方)現金 ××円  /   貸方)売上 ××円

①②とも借方(右側)に記録される現金は 資産としての現金が増加したという記録になっている。一方貸方(左側)に記録されるのは、①では負債の増加、②では収益の増加なので、言い換えると、①は「資産が増えて同額の負債が増えた、財政状態(のみ)の変化」であるのに対し、②は「収益が計上されて資産が増加した」となり、財政状態と損益の両方に影響のある事象が記録されていることになっている。

 

肌感覚で申し訳ないけれど、数多の経営者と接した経験からまず外していないと思うのは、規模の大小や種類にかかわらず、優秀な経営者には、複式簿記的な感覚を持っている人が多いという事だ。

経営に携わる以上は最低限の知識として会計の勉強をする人も多いけれど、それ以上に複式簿記の「取引の二面性」や「貸借一致の原則」といった視点から物事を見ているというところが重要なのだと思う。こういった経営者は、経営判断において感覚的に「相手勘定(反面)は何になるのか」とか「将来にわたる損益面と財政面の二つの観点」という切り口で物事を考えていると思う。

もちろん成功する経営者の中にもそんな考えを全く持ち合わせていない人も居るにはいる。そういう成功例は例えば、ハイリスク・ハイリターンのリターンの面だけ見ていて、リスクを運よく?避けてきた(か、数打った結果リターンが上回っている)、あるいは動物的勘で結果的にバランス(損益と財務の二面の)を取っていたとでもいえば良いかな。後者はある意味才能だけれど、前者は運だから、いつか大けがをするかもしれない。ちなみにこれは一部の投資家やギャンブラーにも言えると思う(いずれそういう話題も出すつもり)。

 

~国の経営~

経営の記録というのは何も企業に代表される私的な営利組織に限って求められるものではなくて、公的な組織でも同じだ。近年は非営利組織でも複式簿記会計を前提とする会計基準に拠って経営情報が記録されるのが普通になっているのだけれど、意外に親方本体(国)が未だだったりする。

世界ではとっくにIASB(国際会計基準審議会)に認められたレベルでの公会計の基準が認知されていて、企業会計でいうところの国際会計基準(IFRS)に相当する国際公会計基準(IPSAS: International Public Sector Accounting Standards)というのも存在するのだけれど、日本の省庁では採用されていないから、今日もどこかで財政法や会計法に基づいた現金収支ベースの単式簿記が使われている。IMFから融資を受けるとか、他国との比較に迫られる事情がないので、民間がひしひしと感じるようなグローバルスタンダードのプレッシャーもかかっていない。とはいえ国家経営を論じる材料としては情報のレベルが落ちるのは否めないと思う。

財務省は平成15年から財務諸表を作成・公開しているのだけれど、作成方法についてはこう説明している(財務省のHP)。

「国の財務書類は、国全体の資産や負債などのストックの状況、費用や財源などのフローの状況といった財務状況を一覧でわかりやすく開示する観点から企業会計の考え方及び手法(発生主義、複式簿記)を参考として、平成15年度決算分より作成・公表しているものです。」

この「参考にして」というところがポイントで、「財政法や会計法に基づいた記録を元に複式簿記や企業会計の考え方になるべく近づけました」というわけ。まあ発展途上というところだろう。

国の財務諸表にはいろいろと論点があるのだけれど、作成方法に加えて、個人的に面白いと思うところを一つ。

国は連結ベースの財務書類(企業で言うところのグループ全体の数字)を作成・公開しているとしているのだけれど、そこには今のところ中央銀行(日本銀行)が入っていない。

これで何が起きているかというと、国の財政状況のうち、日銀引受の国債がそのまま負債として表示されてくるわけ。もし日銀を国の連結グループに含めて表示すると、この分は相殺されて消えてしまう。時あたかも(この記事を書いているとき)いくらでも引受けますよとか言っている日銀引受分国債は、この考え方(日銀入り連結)で行くと特段国の財政状況に大した影響を及ぼさないことになる(なぜなら相殺されて消えるから)。一方で日銀を含めない財政状況を重視する立場からは、「中央銀行の独立性」や、日銀が発行している通貨(円)の取扱いなどから、現状の方法が支持されている。なぜって通貨は発行側にとっては負債だから!。「日銀は国債を引受けて通貨を発行するわけだからその分負債が増えるわけで、結局同じことだよね」というわけ。

普通の家計や事業の感覚では円が負債と言われてもピンとこないかもしれない。銀行預金を思い浮かべてみよう。僕たちが預けている銀行預金は、僕たちにとっては資産だけれど、預けている銀行にとっては負債になっている。それと同様に、僕たちが持っている円が資産になるということは、発行した日銀にとってはその金額の負債が生じているということになっている。これも取引の二面性の一例だ。と、ここまで説明されてもモヤモヤが消えない人もいるはずだ。そのモヤモヤ感はある意味正しい。実はこの、「通貨発行」や、もっと広く言えばお金そのものの性質については結構な議論があるので、いずれ個別の記事でも取り上げたいと思っている。

 

~このサイトの話~

僕自身の話をもう少し。一言で言うと雑食そのものw。仕事もプライベートも、あえて特化しない代わりに、興味の向かうままに、手当たり次第に食い散らかしてきた感じ。会計学や経済もエキスパートというつもりは毛頭ないけれど、意味不明の好奇心でいろんな領域に頭を突っ込んできたおかげで、他所の財務・税務,投資系のサイトとは一味違う視点で経済・ビジネスを語れそうな気がしている今日この頃なのです。

 

 

 

 

というわけで僕が運営する姉妹サイトでは文学や社会・芸術についてしゃべりますのでご興味のある方はりゅうのCへもどうぞ。

 

 

 

 

 

 

 

                 りゅうのCに行く

 

 

© 2024 りゅうのB~by Ryu,K Powered by AFFINGER5